日越ビジネスにおける文化の違い|ベトナムで成功するための実践的ヒント

日越ビジネスにおけるコミュニケーション文化の違い

私はもう20年以上、ホーチミン(かつてのサイゴン)に住み、日本語教師として多くのベトナム人留学生や技能実習生を教えてきました。その間、日本企業の駐在員や若い経営者の方々とも数多く出会い、一緒に市場調査や通訳のお手伝いをしたこともあります。

この経験を通じて強く感じるのは、**日本とベトナムのビジネスにおける「文化的な違い」**です。違いを理解せずにやり取りすると、「なぜ相手はこうするのか」と戸惑いが生まれます。しかし、逆にその違いを知り、受け止めることができれば、両国のビジネスは大きな相乗効果を生むのです。

以下では、私がこれまでに体験した事例や観察を交えながら、いくつかの重要なポイントを紹介します。若い日本人経営者や駐在員の方々にとって、少しでも参考になれば幸いです。

👥 1. あいまいさと「和」を重んじる日本、率直さを好むベトナム

日本のビジネス社会では、曖昧な表現や遠回しの言い方がよく使われます。例えば「検討します」という言葉。日本人なら「おそらく断られるのだな」と察することが多いでしょう。

しかし、ベトナムのビジネス現場では、もっと率直で直接的な表現が多いです。例えば「できません」「難しいです」とはっきり言う場合が多く、日本人には冷たく感じられることもあります。

私がかつて通訳をした際、日本人社長が「前向きに考えます」と答えたところ、ベトナム側は「契約成立だ!」と勘違いして準備を始めてしまったことがありました。ここから学べるのは、曖昧さは日本的美徳であっても、国際的には誤解の原因になりやすいということです。

🕒 2. 時間の感覚 ― 厳格な日本と柔軟なベトナム

日本人にとって「約束の時間を守ること」は当然のマナーです。会議が10時なら9時50分には会場に到着している。それが普通でしょう。

ところが、ベトナムでは「10時開始」と言っても10時15分に人が集まり始めることも珍しくありません。最初は私も「なんてだらしないのか」と思ったのですが、長く住んでいると、これは「時間に対する文化の違い」だと理解するようになりました。

ベトナムでは、人とのつながりを大事にするあまり、前の予定が長引けば次の予定が多少遅れても仕方ないと考える傾向があります。ですから、重要な会議の際には「前日までに再確認する」「時間に余裕をもってスケジュールを組む」ことが大切です。

🙌 3. 上下関係よりもフラットな関係を好む

日本企業では「年齢」や「役職」によってコミュニケーションの仕方が大きく変わります。部長に対する態度と、後輩に対する態度は明確に違いますよね。

一方、ベトナムの若者たちは、比較的フラットな関係を好みます。授業でもよく感じましたが、学生たちは先生に対しても冗談を交えたり、気軽に意見を言ったりします。これは失礼ではなく、「仲間として関わる」文化なのです。

ある日本企業の若手駐在員が部下に「もっと敬語を使ってほしい」と言ったところ、逆に距離が広がってしまったことがあります。ベトナムでは「対等に接してくれる上司」が信頼を集める傾向が強い。ここを理解することが大切です。

📱 4. デジタルでのやり取りの違い

ここ10年で特に感じるのは、ベトナム人のSNS活用の積極性です。若者だけでなくビジネスパーソンも、FacebookやZaloを通じてやり取りすることが多いです。

ある工場長は「メールを送っても2日返事がないのに、Zaloでメッセージすると数分で返信が来る」と笑っていました。つまり、公式文書はメールで、実務的な連絡はSNSでという二重構造が一般的になっているのです。

日本的な「必ずメールで残す」習慣にこだわりすぎると、コミュニケーションが遅れてしまう場合があります。もちろん重要な契約や議事録は文書化が必要ですが、スピード感を持ってやり取りするにはSNSを上手に使うことも大事です。

🍻 5. 接待と人間関係の築き方

日本のビジネス社会では「まずは仕事、その後に信頼」という順序が一般的ですが、ベトナムでは「まずは人間関係、その後に仕事」という傾向が強いです。

私が一緒に飲み会に参加したとき、商談前にベトナム側が「今日は契約の話はなし。お互いを知ろう」と言ったことがあります。その夜はベトナム料理とビールを楽しみながら、お互いの家族や趣味の話に花を咲かせました。そして翌日、「昨日楽しかったですね。では契約の件を進めましょう」とスムーズに話が進んだのです。

この経験から学んだのは、ベトナムでは「人として信頼できるか」が最優先されるということ。特に若い経営者の方々は「数字や条件」だけでなく「人との相性」に注意すると良いでしょう。

📝 6. 失敗事例から学ぶ

もちろん、すべてが順調にいくわけではありません。ある中小企業の日本人社長は「現地スタッフにノルマを厳しく課したら、急に辞めてしまった」と嘆いていました。

ベトナムでは、給与や条件だけでなく「職場の雰囲気」や「人間関係の心地よさ」が非常に重視されます。日本のように「厳しく指導して成長させる」というアプローチは、必ずしも効果的ではありません。

ここで重要なのは、**「相手の文化を尊重し、少しずつ歩み寄る姿勢」**です。ベトナム人も誠実さや勤勉さを持っています。信頼関係さえ築ければ、非常に心強いパートナーとなってくれるのです。


日本とベトナムのビジネス文化には、多くの違いがあります。

  • 日本の曖昧さ vs. ベトナムの率直さ

  • 厳格な時間感覚 vs. 柔軟なスケジュール感覚

  • 上下関係の重視 vs. フラットな関係性

  • メール中心 vs. SNS中心の連絡手段

  • 仕事優先 vs. 人間関係優先

これらの違いは、衝突の原因にもなりますが、理解して活用すれば大きな強みになります。

私はサイゴンで長く過ごしてきましたが、日本人とベトナム人は根本的に「勤勉さ」と「人とのつながりを大事にする心」を共有しています。その共通点を大切にすれば、ビジネスにおいても必ず成功につながると信じています。

若い経営者の皆さんには、ぜひ「違いを恐れるのではなく、楽しむ」姿勢でベトナムに挑戦していただきたいと思います。